— なぜ今クラウド・コンピューティングの需要が高まっているのか
まず始めに、クラウドについて学びたいと考えている非エンジニア系の人が知りたいことは、なぜ今クラウド・コンピューティングがビジネスなどの場で積極的に活用されているのかという点かと思います。そのため、初めにクラウド・コンピューティングの定義などについて説明するよりも、まずはその理由についてお話ししたいと思います。
皆さんご存知のように、ビジネスの場でクラウド・コンピューティングが活用されているということは、そこに何らかの利益、もしくはビジネス上のメリットがあることを意味します。では、そのクラウド・コンピューティングの利点とは何なのでしょうか。私が考えるに、そこには主に「コスト削減」「リソースの効率化」「柔軟性」「安定性」という四つの利点が存在します。
1. コスト削減
一つ目の利点であるコスト削減に関してですが、これはサービスやシステムを構築する上で必要となるサーバーなどの導入・運用コストを削減できるというものです。(削減できるケースが多いというだけで絶対という訳ではありません。場合によってはコストが増えることもあるので、導入には事前の検証が必要となります。)
基本的にクラウド・コンピューティングはオンデマンドと呼ばれる、使った分だけお金を払うといった方式が一般的です。そのためサービスやシステムが正常に動作するかどうかをテストするために、わざわざ最初から高いサーバーを自前で購入する必要はなく、初めはコストの安いクラウド・サーバーでテストをすることが可能となります。また、必要な時に必要な分だけクラウド・コンピューティングを使用することで無駄な運用コストも抑えることができ、結果として自前でサーバーを購入するよりも安価で済むケースが多いようです。
2. リソースの効率化
二つ目の利点はリソースの効率化になります。これはコスト削減に通じるものがありますが、会社で自前のサーバー(通称:オンプレミス・サーバー)を導入・運用する場合、サーバーのストレージ(*HDDやSSD)などを始めとしたハードウェア関連に問題がないかなどをモニタリングし、メンテナンスを行うエンジニアが必要になってきます。そうなってくると会社の貴重な人材リソースをモニタリングやメンテナンスに割かなければなりませんし、サーバーの規模によっては設置場所や電源設備などが追加で必要となり、会社が所有するその他のリソースも消費してしまいます。
しかしながらクラウド・コンピューティングを使った場合、クラウド・サーバーのハードウェア管理などはサービス・プロバイダー側が担当し、適切にメンテナンスなどを行ってくれるため、それまでサーバーのハードウェア管理に割いていた分の人材リソースを他のタスクに回すことができるようになります。他にも設置場所や電源設備といったその他必要となるリソースを気にすることなくサーバーを運用できるため、会社のリソースを効率的に使用できるようになり、業務の促進を図ることができます。
3. 柔軟性
三つ目となるクラウド・コンピューティングの利点は柔軟性です。と言われてもピンとくる人は少ないのではないでしょうか。(英語では「Flexibility」と言うのですが、良い日本語訳を思いつかなかったため、柔軟性と表記しています。)このクラウド・コンピューティングにおける柔軟性の良さを簡潔に説明すると、必要に応じてすぐさまインフラ環境を整えられるという点に尽きます。
例えばですが、会社が提供しているオンライン・サービスに予想外の反響があり、想定以上の数のユーザーが同時にアクセスした場合、自前のサーバーで運用していた場合にはキャパシティ・オーバーでサービスが停止してしまいます。また、新しいサーバーを導入して対処するにもサーバーを購入するところから始めなければならないため、サービスを再開するまでにある程度の時間が必要となってしまいます。
しかしクラウド・コンピューティングを使用してサービスを提供していた場合には、サーバーのキャパシティがオーバーしてサービスが停止する前にサーバーのスケールアップ(*サーバーのスペックを上げる)、またはスケールアウト(*サーバーを増やす)をすることでサービスを停止させずに継続することができます。このように、必要に応じて柔軟にインフラ環境を変更、整えられることがクラウド・コンピューティングの利点の一つとなります。
4. 安定性
クラウド・コンピューティングの最後の利点となるのは安定性です。リソースの効率化のところでも述べたように、自前でサーバーを運用・管理する場合にはどうしてもハードウェアの故障といったトラブルに対処するため、常にサーバーのモニタリングや定期的にバックアップを作成するといった作業を必要とします。これらの面倒な作業を怠ってしまうと、いざという時にサービスを停止させてしまう大きな要因となってしまいます。
しかしながらAmazonやMicrosoftといった大手IT企業が提供しているクラウド・コンピューティングを使用する場合、各社がこれまで培ってきたノウハウを生かしてそういったトラブルが起きないように善処しているため、滅多なことではハードウェア上の問題などは起きません。そのため、中小企業はもちろんのこと、大企業であっても通常は大手のクラウド・コンピューティングを使用した方がサーバー・トラブルのリスクを減らすことができます。事実、Adobeのような大手IT企業であってもMicrosoftのクラウド・コンピューティング上でサーバーを運用し、Photoshop CCなどのサービスを提供しています。
もちろん、クラウド・コンピューティング上でもバックアップは簡単に取れるようになっており、サービスによっては自動的にバックアップを作成してくれます。その他にもクラウド・コンピューティングの主なサービスには通常SLA(サービス・レベル・アグリーメント)と呼ばれるサービス品質に関する合意が定められており、この数値を基にクラウド・コンピューティングのサービスを使用することで、より安定したサービスの運用が可能となります。SLAについては別の記事で再び触れようと思うので、今回は軽く頭の片隅に入れておいてもらえればと思います。
以上、簡潔にですが、クラウド・コンピューティングがビジネスの場で活用されている理由について書かせて頂きました。今回は非エンジニア系の方でも分かりやすいように、主にサーバーを例に利点に関する説明を行いましたが、実はクラウド・コンピューティング上で提供されているサービスはクラウド・サーバーだけにとどまりません。そこで次の記事ではクラウド・コンピューティングとは何かを確認したいと思います。